ヒロインの条件
「野中、花さん」
突然名前を呼ばれて、私は驚いて顔をあげた。
「あの……」
男性はそう言ったまま黙る。
なんでこの人、私の名前を知ってるの……?
私と目があうと男性の目は泳いで、耳を触ったり髪を触ったりと落ち着かない様子を見せる。男性の緊張が私にも移る気がして、なんだかソワソワしてきた。
私は漫画をテーブルに置くと、どうしていいか分からずコーヒーカップに手を伸ばす。名前を呼ばれたってことは、柔道ファンか何かなのかな?
すると、気持ちを奮い立たせるように、男性が口を開いた。
「久しぶり」
カップに口をつけようとしていたが、動揺して飲まずにそのままソーサーにカチャンと置く。それからマジマジと男性の顔を見つめた。
えー? どこかで会ったことのある人だとは思えない、だってこんなにカッコイイ人を忘れる訳がないもん。
私の顔を見て察しがついたのか「やっぱり、覚えてない」と男性は困ったように笑う。それから「ああ、緊張する」と言いながらコーヒーを一口飲み、それから私と目を合わせた。