ヒロインの条件
こんなイケメンと目を合わせたことなんかないので、その視線に動揺して私はとっさに視線を外す。胸がばくばくし始めて、顔がカアッと熱くなった。
「あの……どこかで?」
私は男性の顔を直視することができないので、夏らしいブルーストライプのネクタイをじっと見つめたまま、思い切って尋ねてみた。
「うん、まあ」
言葉を濁してから、男性は気持ちを整えるみたいに椅子に座りなおす。
それから男性が言った。
「好きです」
「……は?」
私の口から間抜けな声が出る。顔を上げると真剣な視線と出くわした。
「だから好き、です」
男性の頬がカッと赤くなり、それから照れたのか、セットされていた髪を右手でくしゃっと乱す。
私の心臓が一瞬止まり、それからバカみたいにドキドキいいだした。聞き間違いか、もしくは人違いじゃないだろうか。だってありえない、こんな素敵な人が突然……漫画じゃないんだから。
「……誰かと間違ってるとか?」
思わず尋ねると「間違ってない」としっかりした声の答えが返ってきた。
「だって……」
私は絶句してしまった。だってどう考えたって、私にこのイケメンが告白って、おかしい。あまりにも現実的じゃない。
「名前は野中 花。全国クラスの柔道選手で、『ブライトテクノロジー』の社員」
「……そうです」
男性が言ったので、私は素直に頷いた。
正確に言えばもう選手ではないけれど、私で間違いない……やっぱりファンとか? たくさんのファンがつくほど強くもなかったが、マニアの人ならありえる。
「好きなのはホットケーキで、嫌いなものは幽霊。大学ごろから髪を伸ばし始めたけど、滅多に髪は下ろさない。ずっと少女漫画好きで、今も最新刊を読書中」
表紙が見えないようにカバーをかけてるのに、バレてる!
私が慌てて漫画を隠すと、男性はニヤッと意地悪っぽい顔で笑った。