ヒロインの条件
「今日のお昼、塩見さんのことランチに誘ったの。野中さんも来てくれる?」
山本さんが言ってきた。
いつのまに誘ったんだろう、佐伯さんは昨日そんなことひとつも言ってなかったのに。
「二人きりの方がいいんじゃないの?」
鈴坂さんが口をだしてきた。「チャンスでしょ」
すると山本さんはにっこり笑って「だって、同期としてランチに行くんだもの。変に警戒させないためにも、複数で行くのは鉄則」と言った。
「山本さんは塩見さんのこと諦めたってこと?」
鈴坂さんが尋ねると「チャンスがあるかどうかは、これからどうやって塩見さんと距離を取っていくかよ。ああいうタイプは、ぐんと近づくと離れていく人だと思う」と自信満々に答えた。
「あっぱれ」
私も含め、経理部全員が山本さんの恋愛頭脳に感服した。私だったら、好きな人にそんな計略を図るなんてこと、できない。
「じゃあ、ランチね。西島さんも誘って〜」
山本さんは手をひらひらと振ると、颯爽とその場を後にした。お昼も佐伯さんと一緒だと思うと、自然と笑みがこぼれる。私は西島さんを誘うため、内線に手を伸ばした。