ヒロインの条件
ランチは、山本さんお勧めのタイレストランに言った。一階は吹き抜けで、飴色の階段が二階へと続く。仏像やガネーシャ、それからタイ国王の写真なんかが飾ってあって、異国ムード満点だ。
私はパクチーが大好きなので、注文するときパクチー増しにする。
「パクチー、もらってくれる?」
隣に座った佐伯さんが、自分のお皿の上のパクチーをフォークで持ち上げる。
「いいんですか? よろこんで!」
そう言うと佐伯さんが「どっかの居酒屋さんみたい」と笑う。それからパクチーを私のお皿に乗せた。
「パクチー、嫌いなの?」
山本さんがスプーンを持ってたずねると、「苦手。へんな匂いがするだろ」と、佐伯さんが言う。
二人はBBQですっかり打ち解けた様子だった。
「いい匂いっていうんだよー」
山本さんが笑うので私も「そうですよー」と同意した。
「西島さんは?」
「しその方が好きです」
西島さんは、やっぱり佐伯さんのことを疑ってるのか、山本さんのように打ち解けるまでにはいっていない。いつも伺うような視線を出していた。
「野中さんは、今日髪を下ろしてるんだね」
佐伯さんが突然話を振ってきた。
「はい、イメチェンです」
私はごはんを口に入れながら、どうしても昨日のことが思い出される。あの暖かな唇の感触が蘇って、ぞわっと体を何かが走った。
「なんだ、ここの痕を隠したいのかと思った」
何を思ったのか、佐伯さんは私の首元を指差した。
「痕っ!?」
山本さんが目をまん丸くして、声を上げた。「何? キスマーク」