ヒロインの条件

有楽町ガード下のドイツビール専門店で待ち合わせをした。天井は低く、しょっちゅう電車が通る轟音が鳴り響くけれど、壁はレンガでカウンターにはヨーロッパのパブなどで見かけるおしゃれなビールサーバーが並んでいて、とても素敵なお店だった。

月曜日とあってか、それほど混んではいないけれど、会社帰りのサラリーマンもちらほらといる。千葉は一番奥の席に座っていた。

「お待たせ」
私は緊張が喉元まで込み上げていたので、出す声がちょっと変だ。

「ん」
千葉は短く返事をして、隣に立つ佐伯さんを見上げた。今日の千葉は、水色の細かなドット模様のシャツの上に、黒デニムを合わせている。今まで気づかなかったけれど、千葉って結構かっこいいいんだな。

「わざわざすいません」
千葉が小さく会釈をすると、佐伯さんも「いや、俺も会いたかったから」と笑いながら座った。

なんとも言えない空気が流れたけれど、私は平静を装ってビールとザワークラフト、ソーセージ盛り合わせを頼んだ。こんなこと初めてなので、なんとしゃべったらいいのかわかんない。

「やっぱり」
千葉が口を開いた。「俺、あなたのこと見たことありますよ」

そう言われて、佐伯さんはにっと口角をあげて笑う。

「記憶力いいね」
肘をつき、耳たぶを触った。「俺も、君と会ったことがある。いつも野中の横にいたな」

私はごくりと唾を飲んだ。これを一触即発というのだろうか、ヒヤヒヤする。
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