ヒロインの条件

「野中はどうなの?」
突然佐伯さんがたずねてきたから、私は「え!?」と言ったきり黙る。何がどうなのか、よくわからない。

「別に俺と暮らして、問題はないよな。ちゃんと自分の部屋に鍵はかけろって言ってあるし」
「あったりまえだ、寝込みを襲うとか、論外だよ」
千葉はどんどん言葉遣いが悪くなってる。これはどうやって収束させたらいいのだろうか。

「野中引っ越せよ、金は出すから」
千葉が言った。「やっぱり一緒に暮らすのは、まずいって」

「どう? 野中は引っ越したい?」
佐伯さんにもう一度たずねられたので、私の頭はぐるぐるし始めた。なんと答えたらいいのか皆目見当がつかない。

「えっと、別に、そんな問題は……」
私はなんとかそう言ったが、千葉の顔色が変わったので、慌てて「でもいずれ出てく、お金貯まったら」と付け加えた。

「本人がこう言ってるんだから、しばらくはうちでいいじゃないか。そもそも君が……名前聞いてなかった」
「千葉です」
「そう、千葉くんが口を出してくる話でもないだろ? 野中と千葉くんは付き合ってるわけじゃない」

千葉はぐっと詰まったような顔をしてそれから「そうですけど」と呟く。

ヒロインって、なんて心的ストレスが多いんだろう。漫画の中を羨ましいなんて思ってたけど、楽しいことだけじゃないんだなあ。

私はソーセージにフォークを突き刺すし食べる。もぐもぐもぐ、食べてないとやってらんない。
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