ヒロインの条件
「だいたい、野中はいつ俺たちの返事するの?」
佐伯さんに言われて、とっさに大きいままごくんと飲み込んでしまった。
「そ、それは」
私は二人の顔を交互に見て、それからビールを手に取り、ごくごく飲む。
「わかりませんっ!」
私はお酒の勢いを借りて言い放った。だってわからないものはわからない。
「私はこんなの初めてなんです。今まで柔道しかしてこなかったから、好きとか嫌いとか付き合うとか、いろいろ、わかんないんです! 判断基準はなんですか?」
「判断基準……」
千葉が考え込む。
「キスやセックスしたいかどうか、じゃない?」
佐伯さんが言うと、千葉の頬が赤くなったのが見えた。私の頬もきっと赤くなってる。
「お、男の人は、そういうの関係ないんじゃないですか?」
私は恐る恐る聞いてみた。「性欲は別っていうか」
「まあ、うん……」
佐伯さんは自分で言っておきながら、まずいこと言ちゃったみたいな顔をする。「でも違うよ? 好きな子とするっていうのは、胸の高まりが違う」
「はあ」
さっき勢いよく飲んだアルコールが、血液内を駆け巡っていて、体が熱くなってきた。ふわふわする。
「で、どっちとキスしたい?」
佐伯さんが尋ねるので「どっちとも、しませんっ」と言い切った。「ファーストキスで、そんな実験みたいなことで、するわけないでしょ」
「まったく、二人ともーっ」
「あ、酔ってきたね」
佐伯さんの声がする。
「そうすね、酔ってます」
千葉の声もする。
「じゃあ連れて帰るか」
「手出さないでくださいよ、野中の結論が出るまでは」
「出さないよ、大事なんだ」
佐伯さんがそう言った。