ヒロインの条件
するとガラッと扉が開いて、佐伯さんが出てきた。下はスウェットに変わってるけど、上半身は相変わらず裸だ。クビにバスタオルをかけている。どういうこと?
私はとっさに目をそらして、床の木目を見つめた。胸がばくばくしていて、汗が出てくる。
「おはよう」
佐伯さんの気配が目の前にきて、私に合わせてしゃがんだ。シャンプーの香りが漂う。
「は、はい、おはようございます」
私は佐伯さんの肌を見ないように、目を彷徨わせた。
「本当にお酒弱いんだね」
くすっと笑うような気配とともに言う。
「すいません、昨日はそのー、ちょっと勢いに任せてというか……」
そう言うと、「まあ俺たちも、ヒートアップしてたしね」と申し訳なさそうな声を出した。
「千葉くんには、ここの住所を教えた。返事をもらうまでは手を出さないっていう約束もした。だから野中は、俺たちのことをちゃんと考えて。千葉くんは最後には俺のことを思い出したよ」
「え!」
私は驚いて顔をあげた。目の前に佐伯さんの顔がある。瞳の中の自分の影が見えるほどに近くにいる。