ヒロインの条件
どっどっどっと脈が耳の中に鳴り響いていた。佐伯さんの素肌はほの暖かい空気を纏っていて、その空気に自分の肌が触れると、ジンと体の中心が疼く。
佐伯さんの顔がそっと近づいて、濡れた髪が私の頬にあたって冷たい。耳元に佐伯さんの纏う暖かな空気が触れて、びくんと体が跳ねた。
「早く思い出せよ」
低くてちょっとかすれた声が耳の中に届く。
ばっと耳を押さえて反射的に体を引いた瞬間、どしんと壁に背中が当たる。すると佐伯さんは「ぶはっ」と吹き出して、尻餅をつき笑い出した。
「ああ……超かわいい」
本当におかしそうに、お腹を抱えて笑っている。
うわーっと恥ずかしさがこみ上げてきて、私は身を守るように三角座りで叫んだ。
「手! 手をださないって、約束したんですよね!?」
「出してないよー」
佐伯さんは転がりながら両手をあげて、「触ってないもん」と言いいながら、立ち上がった。
「俺、ちょっと寝るな」
佐伯さんは首からかけたバスタオルで頭をごしごし拭いてから、ひょいっとそのタオルをバスルームの洗濯機めがけて投げた。
「じゃ、おやすみー」
三角座りを崩せない私を置いて、佐伯さんは自分のベッドルームへと歩いていく。その背中がやっぱりちょっと震えていて……。