ヒロインの条件
出社しても、ドキドキが収まらない。佐伯さんがいないかどうか、社内をキョロキョロとつい見てしまう。今日も髪を一つに結んでない。キスマークの跡は薄れてきたけれどまだある。それに、この方が「かわいい」かな、なんて思ったりして。
千葉には今朝、昨日の謝罪のラインともう一つ「佐伯さんって誰?」と送った。千葉に教えてもらえればいい、なんてラッキー。
お昼休み、外にごはんを買いに行く時、ビルの外でスマホを確認するとラインに『野中には教えんなって言われてる』と、返事が入っていた。
「えー、ケチ」
私はつい一人ごとを言ってしまった。昼休みの間に千葉に電話をかけてみた。こうなったらなんとしても聞き出してやる。
『なんだよ、野中』
千葉に不機嫌そうな声で電話にでられたので、私はびっくりした。
「え、怒ってんの?」
『……別に』
明らかになんだか怒ってる。どうしてだろう。
「昨日酔っ払っちゃったこと、怒ってる? ごめんね」
『それは別に仕方ない。酒が弱いのは知ってるし』
「じゃあ何?」
ちゃんと言ってもらわないとわからない。
『……やっぱ、佐伯と一緒に住むとか、やめろよ』
「え?」
『佐伯と過ごす時間の方が、圧倒的に多いじゃないか。俺が不利だろ? 佐伯のことばっかり俺に聞いてくるしさ』
「……佐伯さんばっかりってこともないんだけど」
自分でそう弁解しながらも、確かに頭の中には常に佐伯さんがいて、早く正体を知りたいと思っているのは確かだ。