となりのキミと
2ヶ月前に遡る。

まだまだ風は冷たく、桜の蕾がおそるおそる膨らみ始めた頃のこと。

私には2つ離れた姉・絵奈がいる。
離島暮らしの親元を離れ、高校からは姉と二人暮らしをしていた。

そんな姉の親友・あいりさんは、同じアパートの隣の住人さん。姉もあいりさんも、4月から大学生になり、ここを出ていく。
前から分かっていたことだけど、いざその時が来てみるとやっぱり寂しいな。
そんなことを思いながら、あいりさんの引越しの荷造りを手伝っていた。

「ほんとありがとね、那奈ちゃんも絵奈も。このお返しは絶対するからね!」

いつだって明るく素敵なあいりさんは、はじめて会った時から私の憧れ。
うちのお姉ちゃんに言わせたら、ちょっと面倒くさがりなとこがあるみたいだけど。
真面目くらいしか長所がなくて、あんなに憧れてた都会暮らしにもなかなか馴染めなかった私とは、大きな違い。

(2年後には、私もこんな女性になれるかな)
たくさん並ぶボディケアグッズを片付けながら、2年後の自分と愛理さんを比べてみたりした。


ガチャ
引越しの荷造りもほぼ終わりを迎えた頃、玄関の戸が空いた。

「あ、晴大おかえりー」

あいりさんの声はよく通る。
晴大と呼ばれたそのオトコの顔は、どこかで見覚えのあるものだった。
あまりにも整った顔に少しばかりたじろいでいると

「晴大くんこんにちは」
姉の声がした。
慌てて私も、軽く会釈をした。

「だれ?」
愛理さんの声とは正反対の、無愛想すぎるオトコの声。

「何言ってんの、親友の絵奈!それから妹の那奈ちゃん」
あいりさんの快活な声が続く。
「あんたと那奈ちゃん、クラス違うんだっけ?でも顔くらい見たことあるでしょう」

「つーかさ、勝手に友達家入れんなよ。ここ俺ん家でもあんの。あちこち触られてまぢでうざ、、」
オトコの口が急に止まった。
180センチはありそうながそいつだが、あいりさんの目力に気迫負けしたようだった。

「ごめんねー、ほんっと失礼な弟で。」
オトコに向けられたあいりさんの視線は、すぐに柔らかいものになり、こちらへ向いた。


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