となりのキミと
程なくして、玄関前にダンボールの塔ができた。
引越しといっても、家中丸ごと片付けるわけじゃなくて、あいりさんの荷物だけ。
オトコの荷物や家具はそのままだった。

それでも部屋を見渡すと、片付け前とずいぶん景色が変わっていた。
この家にあるものは、あいりさんのものがほとんどだったのだ。

無機質な空間に近づいたその部屋で、あいりさんは紅茶を入れてくれた。

「私もだけどさ、絵奈も引っ越すとなると、那奈ちゃん寂しくなるね」
あいりさんが言う。

「そーなの。この子ほんとにひとりでやっていけるのか心配」

「お姉ちゃんの方が料理下手くそじゃん!」
そーなのだ。姉妹の二人暮らしで、料理はわたしの担当。

「でもそれ以外は全部私がやってたでしょう?」

う、、図星だ
何も言い返せなかった。

「ふふ。まぁ、人間やらなきゃいけなくなったら、それなりに出来るものよね」
あいりさんがフォローしてくれる。

「もしも変な虫とかでたら、晴大を呼ぶのよ。あ、でもそれが1番危険だったりして。ねぇ、絵奈」
姉たちが笑う。

当の本人、そのオトコはというと、こちらの会話が聞こえてるのかどうなのか、微妙な距離感でスマホを触っていた。

こんなやつに世話になるなんて、ありえない
内心そう思った。

「あっでもね、那奈ちゃん。
この子、こう見えて繊細なところあるのよ。何かあったら助けてやってね」
「おい!何テキトーなこと言ってんだよ」
愛理さんの明るい声を、攻撃的な声がかき消した。

「だってそうでしょ?お隣同士なんだから、持ちつ持たれつ、、ね?」
オトコの迫力にも少しもたじろがないあいりさんは、そう続けた。
「うるせ。それ以上余計なこというな!」
そういうと、オトコは家の奥へと消えていった。


こうして私の一人暮らしは始まった。
隣にはあの晴大というオトコ。
できるだけ鉢会わないよう、できるだけ関わらないよう、残りの高校生活を過ごそう。
そう強く心に決めた。
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