3月生まれの恋人
『ばかっ!和真のバカっ!!』
ザーザーと音を立てて降る雨に、負けない大声で叫んでみる。
届く、筈なんかないのに・・・。
真冬の雨に打たれ、ようやく寒さだけ強くを感じ始めた時
視界のずっと向こうに、見慣れた自分の部屋が目に入った
都会の片隅の小さなマンション
大学に入る年に上京し、今年で五年目になるあたしの住まい。
泣きながら帰る先が、実家でない分だけまだましだと、あたしは自分にそう言い聞かせて歩いた。
ようやくマンションのエントランスをくぐったものの
あたしの服は絞れば水が貯められるほどにずぶ濡れだった
誰にも見られない事を祈りつつ、こそこそとエレベーターに乗り込む
部屋のある五階に着くとそそくさと降り
あたしはようやく部屋へとたどり着いた
12月、雨、いつのまにか夜・・・
吐く息は真っ白、全身はずぶ濡れで、体中がかじかむように痛い
鍵を開けようとバッグを開け中を探った
『鍵・・・あれ?・・』
ない?
寒さで上手く働かない手で、ごそごそと中を探るものの・・・無い。
『無いっ!?』
どうして無いのだろう?
焦って鞄を探りながら、あたしは漸く一つの事に気がついた。
『無い!手提げ!』
そういえば、鞄の上から小さな布製の手提げを掛けて出かけた筈なのに、鞄から手提げが消えている!
ショップから駅へ降り立ったまでの記憶が殆どないあたし・・・
『鍵・・・あの中・・』
きっと、どこかで落としてしまったのだろう
ショックに寒さに疲れで、もう、探す気力すら湧かない
『ホント最悪だ』
開かない部屋の扉に寄りかかりため息を吐く。
体の力と意識が飛ぶ寸前
“もう、どうにでもなれ”
とあたしは強く目を閉じた