プロポーズ(第7話)
川中さんは、仕事は遅いが、文章がきれいで読みやすい。締切りに気をつけて、いざというときの手助けを厭わなければ、これはこれで、そこそこの戦力なのだった。
先週は、川中さんが会社のパンフレットを印刷会社に発注し忘れていたために、修羅場状態だったが、今週はなんとか平穏無事に休日を迎えられそうだった。
わたしは自分の席に戻った。
月末であれば、今のような部下の仕事のチェックに加えて、課長の仕事のチェックというか、お手伝いもしなくてはならない。会社へ提出する月例報告書のまとめの業務だ。
課長の小湊氏は総務畑から来た人で、56歳。定年がそろそろ視野に入り、今ひとつ頼りにならない。だからわたしは自分の仕事をこなしつつ、そうやってドキュメント課全体を見なければならないのだ。
けれど、今日はまだ月末ではない。
わたしは平穏無事なことに安堵して、自分の仕事の続きを行なった。
平穏さが崩れたのは、退勤時刻まであと1時間と迫った、午後4時のことだった。
「ええーっ? そんなぁ」
かかってきた電話に、川中さんが悲鳴のような叫び声をあげたのだった。