プロポーズ(第7話)
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川中さんの叫び声に、正面に座っていたわたしは、反射的に腰を浮かせた。
「だって、来週の金曜日って……」
川中さんが電話の向こうに抗議しながら、机の上でマウスをぐるぐると動かす。ディスプレイに顔を近づけ、
「ほら、間違いです。そっちからの依頼は、27日って、ちゃんとそうなってます」
と、ヒステリックに告げる。
どうやら営業3課から来ているマニュアルの件らしい。
川中さんが持っている受話器から、言葉は聞き取れないが、男性の怒鳴り声が漏れ出てくる。
「そんな……無理です、今からなんて」
「……」
「いえ、絶対無理ですから。なに言って――」
言いかけて、川中さんがはじかれたように受話器から耳を離した。相手方が乱暴に電話をたたきつけたらしい。
「営業3課?」
と、わたしが訊くと、
「はい。あの……来週いっぱい、っていう話だったのに、締切りは今日だって言いだして」
ヒステリックな口調が続く。
「理不尽ね」
「メチャクチャです」
「今、そこ、依頼のメール出してる? ちょっと見せて」
川中さんの横に立って、ディスプレイを見る。
社内メールで15日に依頼が来ている。締切りは確かに27日になっている。