プロポーズ(第7話)
「どうなってるんだぁ、ドキュメント課は?」
1階のフロア中に響くような大声をあげる。「締切りひとつ守れないのかッ」
直接川中さんにつかみかかっていきそうになるのを、わたしが立ちふさがる。
「お静かに願います。なにか行き違いがあるようですが」
「今日までに仕上げておくように言ってあったマニュアルの件だよ。なにサボってるんだよ」
「その件でしたら、仕上がり希望日は、来週の金曜日、27日となっていますが。ご自分のメールをご覧になりますか?」
諸橋氏を川中さんのパソコンのほうへ案内しようとしたら、彼女がさっとコピー用紙を突きだしてきた。メールを印刷したものだ。
ふむ。こういうときだけは、気が利くのね。
わたしは紙を受け取って、諸橋氏に差し出した。
「ほら、ここ、27日、となっていますよね?」
「うぅ……」
印刷された文面を見て、諸橋氏は固まった。完全に勘違いしていたらしい。
「その後、締切り日を変更してほしい、との連絡も来ていないようですが」
「くっ……」
諸橋氏の日焼けした顔に血の気がのぼって赤黒くなり、同時に恐ろしげにゆがんだ。