プロポーズ(第7話)

「君は?」

と、課長が訊ねてくる。この人は、わたしの残業時間も把握していないのだ。

「昨日の時点で28時間です」

「あと12時間あれば、なんとかできそうかね?」

「まあ、なんとか」

徹夜を覚悟してやれば、なんとでもなるだろう。

「ぼくも少しくらい手伝おうか?」

「いえ、それには及びません」

きっぱりと断った。ワードひとつ、エクセルひとつ使えない人間にいられても、じゃまになるだけだ。

「今夜中に課長のデスクに、仕上げたマニュアルと、発行許可申請書をあげておきますから、明日の朝いちばんに出社して、ハンコを押してください」

このマニュアルを外部に発行するのを課長が許可しました、という書類が必要になる。それが発行許可申請書だ。

本当は部長の許可も必要なのだが、緊急の場合は、その旨を銘記して、課長だけのハンコで足りる。

小湊課長が答える。

「うんうん、わかった。じゃあ、今日のうちに発行許可申請書を出してくれ。ハンコ、つくから」

「まだマニュアル自体はないんですよ。それでもいいんですか?」

「もちろんさ。ぼくは友高くんを信用しているからね」

嘘つけ。明日、休日出勤するのが嫌なだけでしょ。

と思ったが、もちろん言わない。

< 23 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop