プロポーズ(第7話)
「君は?」
と、課長が訊ねてくる。この人は、わたしの残業時間も把握していないのだ。
「昨日の時点で28時間です」
「あと12時間あれば、なんとかできそうかね?」
「まあ、なんとか」
徹夜を覚悟してやれば、なんとでもなるだろう。
「ぼくも少しくらい手伝おうか?」
「いえ、それには及びません」
きっぱりと断った。ワードひとつ、エクセルひとつ使えない人間にいられても、じゃまになるだけだ。
「今夜中に課長のデスクに、仕上げたマニュアルと、発行許可申請書をあげておきますから、明日の朝いちばんに出社して、ハンコを押してください」
このマニュアルを外部に発行するのを課長が許可しました、という書類が必要になる。それが発行許可申請書だ。
本当は部長の許可も必要なのだが、緊急の場合は、その旨を銘記して、課長だけのハンコで足りる。
小湊課長が答える。
「うんうん、わかった。じゃあ、今日のうちに発行許可申請書を出してくれ。ハンコ、つくから」
「まだマニュアル自体はないんですよ。それでもいいんですか?」
「もちろんさ。ぼくは友高くんを信用しているからね」
嘘つけ。明日、休日出勤するのが嫌なだけでしょ。
と思ったが、もちろん言わない。