プロポーズ(第7話)

「拒否……」

「いや、もちろん、拒否したとしても、来週には予定通り発令することになります」

と、玄海部長がつけ加えた。

つまり、今日、これから時間外労働をできるように、という逃げ道を作っているのだった。

成宮係長が一瞬目を泳がせたあと、ちらっとわたしのほうを見た。

もしかしたら、彼が居残ってくれるのかしら、とわたしは虫のいいことを期待した。もしそうなったら、とても助かる。自然に指をぎゅっと握っていた。

成宮係長は次に、わたしのとなりに立っている四方にも目を向けたが、すぐに玄海部長のほうへと視線をもどした。

「わかりました。ありがたくお受けします」

玄海部長は短く「うん」とうなずき、手にした小さな紙を読み上げた。



 任命書

 成宮彰一郎

 右の者を××月20日付で特殊機械部 設計課 課長に任ずる

    ××年××月20日

    人事部担当取締役 若杉貞夫



その任命書を受け取って、成宮係長は成宮課長に昇進した。

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