プロポーズ(第7話)
こと恋愛経験に関しては、たぶん川中さんのほうが、わたしより一桁上のベテランだと思う。
そんな人にアドバイスするのはおこがましい、という気はしたが、それでも言った。
「そうね、そういうときは、友だちとパーッとお酒でも呑んで、気晴らししたらどう? あ、ごめん、つき合ってあげたいけど、わたし、まだ仕事が残っているから」
「仕事、あたしがしますから」
「え?」
「すみません。マニュアル、徹夜してでも、仕上げますから」
「いいのよ。いろいろ他人から手伝ってもらって、もうあといくらもないの。川中さんは、とにかく帰りなさい。ね?」
「仕事、させてください。気がまぎれますから」
「だって……」
どう見ても、とても仕事ができる雰囲気ではない。
それでも川中さんが、
「お願いします。仕事、させてください」
と粘るものだから、OKせざるを得なかった。
「わかったわ。じゃあ、とにかく、お化粧だけは直してきたら?」
「はい」
かぼそい声で返事して、きびすを返そうとした川中さんだったが、そこでもう一度わたしのほうへ向きなおった。