プロポーズ(第7話)
「あ、困ります、四方さん、わたしの分はわたしが……」
あわててバッグから財布を取り出そうとしたが。
ない。
財布が見当たらない。
そんなはずはない、とあせってバッグの中をひっかきまわず。
やっぱりない。
どこにもない。
あれ、どこに置いてきたんだろう、と考えを巡らそうとして。
ふいに気がついた。
つい先ほどまで店内を満たしていたざわめきが今は消え、あたりがしーんと静まりかえっていることに。
どうかしたのかしら?
と、いぶかって、顔を上げた。
「え?」
ぎょっとした。
店内にいる客と従業員の視線が、わたしに集まっているのだ。
制服を着たOLたちも、暇そうなおばちゃんたちも、作業服を着たオッチャンたちも、とうの立ったウェイトレスのひとりひとりも、みな、珍獣をながめるような好奇の目で、私を見つめている。
あわててレジのほうを見ると、四方はもう支払いをすませて店を出ていったようだ。