プロポーズ(第7話)
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腹を立てているせいで、自然と早足になり、あっという間に会社に着いた。
駅の裏手の商業地の一画に、わが「ハマナカ工業」の本社がある。地方都市とはいえ、一等地に、かなりの大きさの土地を占めている。
なんでも、戦後のどさくさの時期に、ここいらにあった大きな繊維工場を創業者が買い取り、機械工場に建て替えたのが始まりらしい。
今では工場は、車で15分ほどの郊外に移され、この地には大きな7階建てのビルが建っている。ハマナカ工業の本社ビルだ。
ビルの前と横の、アスファルトで舗装した駐車場には、社員の乗ってきた車がぎっしりと駐車されている。
わたしは自分の、もうポンコツになった軽4のところへ行って、車内を探した。
バッグにあるはずのお金がなかったので、車のなかに忘れたのかと思ったのだ。
でも、結局、車内にはなかった。
それで、ビルに入ると、1階の更衣室へ行った。
自分のロッカーを開けると、上の棚に財布が置いてあった。今朝、着替えるときにバッグから出し、ほんのいっときのつもりで棚に置いて、忘れてしまったらしい。
(あー、よかった)
ホッとして財布を取り、職場にもどった。