明日、彼女がいなくなる。
じゃあここで待ってますね、と渡されたのは店の名前が書いた紙。




────────… なるほど、ずっと誘うつもりだったってことか。



彼女が去ったあと楽屋の床に寝そべった。




顔に塗られたファンデーションがベタベタと顔にまとわりつく。


その時携帯が音を立てて揺れた。



着信 由美子




電話なんて珍しいな。
電話は出れない時もあるし気を使ってメールばかりだったから。
まあそれも、今になっては無くなって来ているけど。




「もしもし」


「もしもし、湊。

ごめんねいきなり」


「いや…何かあった?」


「あのね、今日って時間ないかな」


「……今日?」




この時に違和感を感じておけば良かった。
今まで由美子はこんなこと一度も言ったことはないのに。




「ああ、ごめん無理だわ」


「っあの、本当にちょっとだけでいいの」


「…あのさー俺の仕事分かってる?

そう簡単に時間作れる仕事じゃねえの。

それくらいさすがに分かるでしょ」


「────────… そう、だよね。

ごめんね迷惑かけて」


「いや、じゃあまた連絡する」




連絡した試しは、あまりない。

彼女のことより共演者を優先したこと、当たり前だと思ってた。


好感度が大事なこの仕事。
ファンや世間の人達だけじゃなくて、監督や共演者にも言えること。

誘われたことは笑顔で受ける。
それがここで生きていくための鉄則だ。




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