かおるこ連絡ノート
薄闇の中。
虎之助は、座り込んだまま、自分の両手を見つめていた。
この手にまだ、先刻の感覚が残っている。
この手で、あいつの腕を切り落とした。
伊庭八郎。
まだ、人並みの希望だけを抱いていたころ、出会った、親友。
千人からの門弟を抱える、伊庭道場の後継者。
幕府の信頼も厚い伊庭家の、天才的な剣の腕を持つ、青年。
人懐こい笑みを、いつでも湛えているような男だった。
それでいて、剣を持つと、人が変ったように激しさをみせた。
剣の話をするときは、その情熱を隠そうともしなかった。
夜が明けるのも気付かず、剣の稽古をした。
虎之助が、師匠から「時代の流れに関わるな」と厳命され、剣を時代のために使うことを禁じられてからは、なおさら。
八郎と剣を交え、時代の流れを語り合っている時だけが、虎之助にとって安らぐ時だった。
なのに。
「ひどい、親友だよ。おまえは」
虎之助は、座り込んだまま、自分の両手を見つめていた。
この手にまだ、先刻の感覚が残っている。
この手で、あいつの腕を切り落とした。
伊庭八郎。
まだ、人並みの希望だけを抱いていたころ、出会った、親友。
千人からの門弟を抱える、伊庭道場の後継者。
幕府の信頼も厚い伊庭家の、天才的な剣の腕を持つ、青年。
人懐こい笑みを、いつでも湛えているような男だった。
それでいて、剣を持つと、人が変ったように激しさをみせた。
剣の話をするときは、その情熱を隠そうともしなかった。
夜が明けるのも気付かず、剣の稽古をした。
虎之助が、師匠から「時代の流れに関わるな」と厳命され、剣を時代のために使うことを禁じられてからは、なおさら。
八郎と剣を交え、時代の流れを語り合っている時だけが、虎之助にとって安らぐ時だった。
なのに。
「ひどい、親友だよ。おまえは」