かおるこ連絡ノート
罵られても、当然だ。
そう思っていた虎之助に、だが八郎は師匠と同じことを言った。

「今は俺も、あんたの先生と同じ思いだよ。俺にできなかったことを、やってくれ」


「ほんとうに、ひどい人だ、八郎さん。俺にばかり、あんたのささやかな夢を背負わせて。剣を取らず、妻をめとり、ささやかに幸せに生きる。そんな夢、俺の夢じゃない。あんただって、先生だって、それはわかっていたはずなのに」


久しぶりに再会した八郎は、左腕にひどい傷を負っていた。
とても戦い続けられる傷ではなかった。
手当てをしながら、虎之助は、八郎を匿う覚悟を決めていた。
八郎は、もう、十分に戦った。
そう長く生きられる傷でも、身体でもない。
ならばせめて、最後は親友として、側にいてやりたかった。

なのに。

「虎さん、斬ってくれ」

八郎は、そう言って、虎之助に傷ついた左手を差し出した。
剣を差し出され、虎之助は、悲鳴をあげそうになった。

勘弁してくれ。
俺にとって、あんたがどれだけ大切だと思っているんだ。
生きて欲しい。
あんたや先生が、俺にそう願ったように、俺だってあんたに生きて欲しい。
ただ、生きていてほしいんだ。

「虎さん、俺は戦って死にたいんだ!怪我や病で死にたくはない」

後ずさった虎之助に、八郎は、初めて縋るように、叫んだ。
そうして、微笑む。
ずっと見てきた、穏やかな、かすかに虎之助を傷つける、微笑み。

「……お願いだ。友達だろう?」
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