かおるこ連絡ノート
「あんただって、本当なら社長の息子なのに」


病院で、久しぶりに会った母は、すっかり小さくなっていた。

邦宏は初めて、自分の父親が会社の社長として今も生きていて、自分たちが捨てられたのだと、知った。


「あたしが死んだら、あんた、父親に会いに行きなさい。
あんたのことまで忘れたなんて、言わせない」


母の、皺だらけの頬に流れる涙を見て。

邦宏が父親に感じたのは、憎悪、だった。



それでも。

生きているうちに、母親に会わせてやりたい。

そう思って、教わった住所を頼りに、父親の会社を訪ねた。

受付で、社長に取り次いでさえもらえなかった。


「社長には、娘さんがひとりいるだけです」


息子と母親のことを忘れて。

父親は再婚して、娘まで作って、社長として何不自由なく暮らしている。

そう知ったとき。


許せない、と。


強く噛み過ぎて血の滲んだ唇を、手の甲で擦りながら、邦宏は胸に刻みつけた。
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