父の死とドーナッツ
ドーナッツの童話

誰かかシンプルで美味しく大きなドーナッツを買ってくる。

まだ、子供の久美子ちゃんがそれを一口食べるが、まだまだドーナッツは残っている。

中学生の幸太郎君もがぶりと食べるが、まだまだ残っている。

OLの美咲ちゃんが、食べるが、まだまだドーナッツは残っている。

それでも一つのドーナッツを皆で食べるのを嫌がる洋服屋の山口さんが一気にそれを食べてしまう。

山口さんは、お腹が一杯になって満足そうに眠る。

皆が実は、ドーナッツを待っているのを山口さんは、知っててわざと食べたのだ。

皆少しだけ不満そうな顔をするが、仕方ないと思う。

そこに、ドーナッツを作ったこの世界で一番のドーナッツ職人の尚樹さんがやって来る。

尚樹さんは、悲しそうに無くなったドーナッツを見る。

まるでドーナッツがそこにまだ存在してドーナッツの穴が尚樹さんには見えるようだった。

尚樹さんは、泣きながらドーナッツの穴の空洞を見ている。

そこには、既に大きくて美味しいドーナッツは無くて大きな何らかの空洞しか無いのだが。

それは、尚樹さんが予想してた事とは、違ってたが尚樹さんは自分自身の考えが甘かったと思う。

山口さんが悪いのでは無いとも思う。

誰が悪いでも無いが、尚樹さんは二度とこういうドーナッツを作れないのだけは、分かっていた。

皆も尚樹さんのようにかつてあったドーナッツを思い出そうとするが、鮮明には思い出せない。

そこに有るのはドーナッツを食べた後のドーナッツの大きな穴だけが見える気がした。

しかし、確実にそこには大きな美味しいドーナッツがあったのだ。

確実にだ。

尚樹さんは、誰も責めずにその場を去る。

尚樹さんがドーナッツ作りを辞めた事だけは、皆風の噂で聞いたがどうしてるかは、誰も知らない。


おわり
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