諦めたけど好きです
片思いは揺れる
「ふふっ!楽しみだねー♪」
私の隣でユリナがルンルンと歩いている。
「……ユリナ、前ちゃんと見なさい。」
今危なくユリナが人とぶつかるところだった。
「あーあ、早く修学旅行の日にならないかな~?」
そう、私たちはもうすぐ修学旅行に行く。
だから最近はみんなその話しかしていない。
「ねえ!那奈はだれと自主研修のグループ一緒になりたい?」
「誰って言われても……誰でもいいよ」
「も~、そんなこと言っちゃって!本当は光樹くんと一緒がいいくせにっ!!」
ユリナが私の背中を強く叩いた。
「光樹……か…」
口には出さないが忘れてた。
ただ、秀と同じグループは嫌だな~とか考えてたけど。
「次の時間!グループ決めだよ!光樹くんからお誘いくるといいね!」
ぐっと親指をつき出してウィンクする。
……ほんと、男には見えないよな~この可愛さ。
「えーでは、グループを決めてください」
彰先生がだるそうに言った。
「「「はーい」」」
さてと……誰とグループになろうかな……
「おい!!那奈!!」
「……声でっか…」
光樹が私に近づいてきた。
「あ、あのさ!!俺と…俺と同じグループにならない!?お願い!!」
「いや、いいけどもう少しボリュームさげて……」
「やった!!!!サンキュッ!!!」
光樹はスッゴい笑顔で去っていった。
「……嵐みたいだったな」
それから何人もの女子が誘ってくれたけれど、光樹も一緒だと言ったら邪魔しちゃ悪いと逃げていった。
結局、余った2人の男子と光樹と私で回ることになった。
それから光樹はずっとニコニコだった。
最近はいつも光樹といるが今日は機嫌がいいらしい。
「なぁなぁ!!お昼ご飯とかなに食べたい?あそこも有名らしいんだけど~あのラーメンも美味しいんだって!!先輩に聞いたぜ♪」
「……ねぇ?光樹、さっきから食べ物の話しかしてないけど……」
「へ?そうか?あ!でもな!旅館のご飯って結構量あるらしいぜ?だから食べ過ぎには注意しないとな~」
「ぷっあはははははははははっっ!!」
「え?なんでそんな笑ってるんだ?…那奈?」
「だ、だってあんたっ!さっきから食べ物の話しかしないじゃんかっ!ぷっふふっ!」
「あ?そうだっけ?」
犬みたい……
そう思うとまた笑いが込み上げてきた。
「あはははははははははっっ!!」
光樹となら楽しくなりそうだな……
「おーい!那奈~!」
「はい?」
後ろを振り替えると彰先生がパタパタ走ってきた。
「ハァハァ、やっと見つけた~」
「?先生、どうしたんですか?」
「ちょっと待って……息を……」
ゼェゼェ言ってる先生の首には汗がつたっている。
なにを急いでたんだ?
「ふーっ!よし、もういいぞ!」
「……で、先生はなぜ私を探していたんですか?」
「いや実はな、修学旅行のしおりの表紙の絵のことなんだが、お前に頼もうと思っているんだ。」
「え!?私がですか!?」
「そうそう、お前絵けっこう上手いだろ?みんなに聞いてもお前が一番センスがいいって言うんだ。だから……頼まれてくれないか?」
そんなに誉められると引き受けるしかない。
「わかりました、私が描きます。」
「オッケー!んじゃよろしく~!」
先生は先程までとは違い、ゆっくりとした足取りで歩いていった。
けど、急に振り返った。
「あのさー!!その表紙の締め切り……今日までだから~!!」
「………………………は?」
「ヨロシクネ~」
………………………今日?
私は時計を見る。午後1時過ぎ。
「マジかよ………」
頭が白くなる。
~放課後~
私は教室で1人ポツーンと座って表紙を描いていた。
「……くそぉ……………面倒なとこ押し付けられた……」
それから1時間苦戦し、なんとか自分が納得する絵が描けた。
「よし!!できた!!後はこれを彰先生に渡して終了!!」
ずっと同じ体制でいたから首がいたくなった。
「おいしょっと」
『ガラガラ』
「失礼します、あの彰先生表紙できました。」
「おおー!うまいうまい!よくやったな。」
誉められ頭を撫でられた。
子どもみたいただ。
「やめてください……それでは」
とっとと帰ろ。
そう思いドアに向かおうとすると
「…………なぁ?」
「……はい?何ですか?」
先生見ると、いつもとどこか違う真剣な表情があった。
「…………………那奈さ、なんで光樹と付き合ってるの?」
「え!?なんでってそれは……………」
……………………なんでってそんのなの決まってる、私は光樹を……
「……“好きだから”とか、言おうしてる?」
「あ…………………」
先生からとっさに目を反らす。
「……俺さー、なんで那奈と光樹が付き合ってるのかスッゴい疑問なんだよね。だっておたくら、両思いじゃないだろ?」
先生が私を指差す。
「っ!……ちがいます!!私と光樹は……」
「はーい!ここで問題でーす!!」
いきなり大きな声を出されてビクッとなる。
「光樹は、なぜ今日のグループ決めで真っ先に那奈のところに行ったでしょーか?」
「……私と一緒に行きたいと思ったから…」
「はーい、50点!」
「え!?低い!!」
てかなんでいきなりその話?
「答えは簡単。独り占めしたかったから。」
「……………………は?」
「“一緒に行きたい”ってのも間違ってはいないが、それでは説明不足。」
先生は授業のように説明してくる。
「光樹は、他の誰かにお前をとられるのが怖くて仕方ないんだよ。」
先生はビシッと私を指差す。
「とられるって…………」
「あ、”とられる“じゃないか。お前がいなくなるのが怖いのか。」
「私がいなくなる?」
先生は口だけ笑った。目は笑っていない。
「男はな、好きな女が誰をよく見てよく考えてるのか。悲しいことにわかっちまうんだよ。」
「…………………………」
「那奈が光樹に抱いてる気持ちは好きなんかじゃないと俺は思う。」
先生の目が鋭く光った。