【短】放課後の恋人

 どういうことなのかわからないでいると、樹くんは微笑んだ。



「七海ちゃんに会いたくなった」



 言うまでもなく、わたしはドキッとした。
 あんな笑顔で言うなんて反則。


 あんなふうに、みんなに笑顔を振り撒いているんだろうか。


 そう思ったら、何か……
 すごくイライラした。



「勝手に持ち出して、ごめん」



 樹くんは教壇のあたりまで歩いてきてスマホを差し出す。


 わたしは気持ちを抑えるように呼吸しながら、樹くんのところまで歩いていった。


 赤いスマホを受け取る。手は震えていなかっただろうか。
 誤魔化すように、すぐにカバンに入れる。


 何を言えばよかったのかわからなくて、ずっと無言だった。


 この間まで、あんなに喋っていたのに。
 わたし、どうしたんだろう。
 樹くんだって、らしくない。

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