【短】放課後の恋人


「じゃ、帰るね」



 だから、もう帰るしかなくて樹くんに背を向けていた。



「待てよ!」



 樹くんに右手を掴まれて、驚いてカバンを落とす。静かな教室にけたたましい音が響いた。


 中身が散乱。
 拾うの大変そうだな。なんて考えながら、手を掴んだ樹くんの顔を振り返る。


 また淋しそうな顔をしていた。



「なに? 帰りたいんだけど」



 冷たくしてしまったのは、この気持ちがバレないようにしたくて。
 今まで気づきもしなかった気持ちが、なぜ今頃――――。


 だから早く離れたかった。
 じゃないと……。

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