【短】放課後の恋人

 何となく言わんとしていることがわかったわたしは、彼を鼻で笑う。


 本当にわたしって、嫌な女。



「前にも言ったでしょ? 贅沢だって。樹くんが笑えば、みんなしっぽ振ってついてくる。いいじゃない」



 ダンッとまた後ろの黒板が音をたてた。



「放課後。オレに会いたくて、わざと忘れ物してるかと……っ」

「違うわ。今日だって樹くんがいるなんて、忘れてたくらいだもの」



 やっと正面を見た樹くんと目が合う。


 ずっと下を見ていたせいか、前髪が目にかかっている。前髪の向こうにある鋭い瞳が、わたしを見つめて離さない。



「ずっと会いたかった」



 まるで懇願するように言うから、わたしはいい気味だなんて思ってしまった。

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