君に伝えたいこと





佐々木さんと出会って丁度一年後の今日。


朝、起き抜けで少しだけ感じた目眩に不安を感じた。



もしかして、調子が少し悪いかな?


けれど、立ってみたら普通に歩けて。

まあ、平気かな。
ここ数ヶ月体調を全く崩さなかったし。

それに…“今日”は平気じゃなきゃ困る。


深呼吸をしてからピンクのリップグロスをいつもより多めに塗る。
鏡越しに、「出かけるの?」と話しかけてくる歩にいつもより元気な声で「うん!」と答えて家を出た。











この一年、何度も通ったこの河原。

秋の風に髪の毛を少しさらわれながら、小さな折りたたみ椅子に座る猫背の背中を見つける度に嬉しかった。

…今日も。

小脇に抱えた大きなトートバッグには、スケッチブックが入っている。それをしっかりと持ち直してからその名を呼んだ。


「佐々木さん!」


声に反応し、振り返る”ふにゃり”笑顔。

「おはよう、雪ちゃん。」

駆け寄るにつれて、光に反射して綺麗に光る茶色の髪が鮮明になる。

「そんなに走って平気か?」
「大丈夫だよ!」

本当に一年経ったんだ…佐々木さんと河原で会う様になって。

幸せな気持ちと感謝を抱きながら、スケッチブックを取り出す為にトートバッグに手を入れた瞬間だった。


光に照らされて輝く川の水面も、芝生の緑も、あちこちで揺れる花も…視界の全てが歪み、暗闇に変化して行く。

ぐらりと身体が傾いた気がしたけれど、定かじゃない。

鈍い影が意識の全てを覆い尽くす直前に聞こえたのは、「雪ちゃん!」と叫ぶ佐々木さんの声だった。


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