君に伝えたいこと
◇◇





河原で時々見かけていた女の子。

だいぶ俺より歳が若そうだと言うのはわかっていたけど、スケッチブックに向かうその姿が印象的で、気が付いたら「今日は居るかな?」なんて思いながら河原に足を運ぶようになってた。

景色の映るその目がすっげーキラキラしてて、この子はどんな世界をスケッチブックに収めてんだろうって最初はそっちの興味が強かった。

誕生日の晩、丸い月をスケッチしたくて足を運んだ河原に偶然立っていたその子。
その姿があまりにも透明で消えちまいそうで…だけど輝いていて。水面に反射する月明かりみたいに儚く綺麗に思えた。


そんな雪ちゃんとの出会い。


会っている間、無邪気に笑ってくれているのが嬉しくて、その距離が縮まればそれだけ会いたいと思う気持ちは増えて行く。


まあ…週一ペース位で会って、並んでスケッチしながら他愛も無い話しをするだけなんだけど。


そりゃ、何度も思ったよ、“触れてしまおうか”って。

だけど、それはしてはいけないとその度にどこかで警鐘が鳴り続けていて。



『雪ちゃんのほっぺたもちもちやな。パンみたい。』
『ちょっと…つつかないでください!気にしてるんだから!』



精一杯がここまでだった。


何の進展も無い、だけど想いは募る…
そうしてあの月夜の晩から一年が経っていた。




「佐々木さん!」


いつも通りの満面の笑みで大きく手を振りながら小走りで向かって来る雪ちゃん。

白い綺麗なロングスカートが風に靡く。


…なんだ?


突然、胸騒ぎが起こった。

だけど、俺にはそれが何なのか全くわからなくて、雪ちゃんの頭の感触をいつも通り掌で確かめただけ。

でもそれに応じて笑う雪ちゃんは、出会ったあの日と同じ。


”煌めいてるのに透明で、儚い”そんな印象を受けた。


「雪ちゃん…」


名を呼ぶ俺に、雪ちゃんはトートバッグから何かを取り出す手を止めて再び笑顔を見せた…けど。


次の瞬間


その残像を残したまま、俺の腕の中に倒れ込んだ。


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