君に伝えたいこと
◇◇
雪が嬉しそうに会ってるそいつは、大声なんてものとは無縁だろうなと思わせる位ゆったりとした空気を持っている、そんな印象だった。
それが今
「雪ちゃん!雪ちゃん、しっかりして!」
あり得ないくらい、大きな声で叫んでいる。
…とにかく早く病院へ連れていかないと。
ダッシュで、そいつの腕から雪をとりあげた。
突然現れた俺になのか、それとも現れたヤツの顔が雪にそっくりだったから、なのかは定かじゃないけれど、青ざめたその顔が驚きの色を見せる。
それに何も答えず、立ち尽くしてるそいつを置き去りにして、河西先生の所へと急いだ。
「…無理して外出しちゃった?
朝から少し異変があったはずなんだけど。ここまで苦しくなるって事は。」
「…俺の責任です。」
処置を施し、雪の呼吸が安定して眠りに入ったのを確認すると先生は終始雪を見つめている俺に目線を一度移した。それから溜め息を一つ付くと雪のトートバッグから二冊のスケッチブックを取り出す。
「…『歩には内緒だよ』と中身を時々見せてくれてたんだよ。俺と担当のナースには。って事で、俺が見る分には構わないよねー。」
わざとらしく俺の隣に椅子を持って来て座る先生。
その手に寄って、パラリ…パラリ…とスケッチブックが捲られていく。
そこに描かれていたのは、たくさんの俺の笑顔。
ページの最後には、雪の筆跡でメッセージが綴られていた。
『歩!
ずっと、ずーっと一緒に居てくれてありがとう!大好きだよ!』
ねえ、雪…
俺が雪を女として見てるのはわかっていたでしょ?
そんな許されない事をしている俺に、それでも尚、姉弟として愛情を向けてくれるの?
俺の頬を静かに伝う涙。それが妙に温かくて、柔らかい。
『歩!』
雪の優しい笑顔が目の前に浮かんでポタンと涙がスケッチブックに落ちて滲んだらパタンとそれが閉められた。
「…こっちをどうするかは、歩くん次第にしていい?」
もう一冊の青一色のスケッチブック。
中身なんて、すぐに予想はついた。
あいつに…だよね。
これを俺に、どうしろっつーんだよ…。
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