君に伝えたいこと






…あれから5年。

大人になるにつれて、私の身体は丈夫になって、佐々木さんのデザイン事務所でお世話になり始めてからは体調を崩す事も稀になった。



けれど…




「雪」


皆が帰った後も、事務所に残ってクライアントから依頼されたデザインの構想を練り直していた私を一緒に残っていた佐々木さんが呼んだ。

ソファの上にあぐらをかいて手招きしているのに近づいて行って目の前に立ったらその両腕が広がって、引き寄せられる。


「…雪、温けえ。」


その言葉にギュウって気持ちが掴まれて、そっと自分の手を彼の柔らかい髪に差し込んで、後頭部から引き寄せた。


「俺、今日誕生日。」

「…うん。おめでとう。」

「ん、ありがとう…
今年も一緒に居てくれて。」



あの誕生日の日からずっと
佐々木さんは毎年、私の『存在』を確認する。


ごめんなさい。
恐い思いをさせて。

ありがとう
私を欲してくれて。


随分私より大きなはずの、猫背がちの身体をそっと抱きしめ直した。



「雪…一緒に寝よ。」


重ねた唇は初めて掌に感じたのと同じ、温かくて優しくて私の心を包み込む。


『いっぱい伝えたい事あったんだけどなあ…』


あの日、病院のベッドで私を抱きしめた佐々木さんは苦笑いでそう呟いた。


『まあ…ちっとずつな。』


その言葉の通り、こうやって、佐々木さんは私にずっと伝えてくれている


“大切”と言う想いを。



「雪…おめーのほっぺたつついたら、腹減った。
東栄デパートに入ってるパン屋の塩パン食いてえ。」

「……。」


佐々木さん、ずっと大好き。

だから一緒に居たい、これからも。

私も、沢山の想いをあなたに伝えて行きたいから…。




(『キミに伝えたい事』fin.)
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