隠れ蓑〜偽り恋人・真実の愛〜
そんなある日。
営業の男性が、取引先のお客様を連れて外回りから帰ってきた。
いつものように小さく頭を下げて声を掛ける。
「、、お疲れさまでした。」
「お疲れ様です。会議室を抑えて来ますので、その間お客様にお茶をお願いします。」
「はい、分かりました。」
お客様を引き連れて声を掛けてきた男性営業マンは、営業でエースの津川さんだ。
この若さで課長という役職まで付いている。
彼を知らない人間はこの会社にはいないくらいで、誰もが振り返る程のルックスで女性からかなりの人気がある男性だ。
こんなに素敵な男性なのに、恋人がいないんだとか莉子ちゃんが話していた。
営業のエースである彼は外回りが多く、受付を通る機会も多い。
だから何となく顔を知っている程度だ。
他の男性とは違って必要以上に声を掛けてはこず、挨拶を交わす程度だった。
これが普通な事なのに今の私にとって、とてもありがたかった。
お茶をお盆に入れて、ロビーのソファーに座るお客様に近づく。
「大変お待たせしております。宜しければどうぞ。」
笑顔を貼り付けそう声を掛けると、何故か急に手を握られた。