隠れ蓑〜偽り恋人・真実の愛〜
地を這うような低い声。
ジャケット越しでも分かるほどのビリビリとした空気に静まり返るロビー。
「本来なら警察に連絡を入れる所ですが、、そうすれば彼女も事情聴取などでまたツライ思いをする事になるでしょう。それを避ける為に警察には突き出しませんが、貴方の会社には報告させて頂きます。それから二度とこの会社に近づかないという誓約書も書いてもらいますので、そのつもりでいて下さい。」
「っ、、、!」
津川さんの口調は丁寧だが、声に凄まじい威圧感があってお客様も黙り込んだままその場から動けずにいるみたいだ。
すると津川さんが追い打ちをかけるように小さく呟いた。
「なぁ、、、聞こえなかったのか?今すぐココから出て行けっていってんだよ。それとも二度と外に出歩けないくらい、、社会的に抹殺されたい、、?」
きっとロビーにいた人間には聞こえないほどの小さな声。
でも私とお客様には確実に聞こえた。
頭に掛けられたジャケット越しから見えた彼は、普段の津川さんからは想像も出来ないほど別人に見えた。
彼の背中の先にいるお客様は、顔面蒼白でガタガタと震えていて後ずさりしながら逃げていった。