突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
第一章 予期せぬ出来事
 縁側を歩いていると、視界の端にひらひらと舞うなにかを見つけ、足を止める。見上げれば、日本庭園にある枝垂(しだ)れ桜が、時折、花びらを散らせていた。流れる滝のように咲くそれと心地の良い木漏れ日に、今年もすっかり春を感じる。

 ずいぶんと良い天気。まさに、おめでたい日和ね。

 その光景から名残惜しく顔を背け、奥座敷の障子を開けた。

 家の中で一番大きなその部屋には、今日の日に備えていくつかの衣紋掛けが並んでいる。私はその中の淡い黄色の訪問着を見据えた。身頃から袖まで続く模様をそっと撫でると、正絹(しょうけん)の手触りの柔らかさに思わず唇が綻(ほころ)ぶ。

 あと数時間後には、これを着て我が家きっての一大イベントに参加することになる。主役じゃないのに、想像すると緊張してきちゃったな……。でも、お姉ちゃんの晴れの日。粗相がないように、私も気を引き締めないと。
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