突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
第二章 今夜は眠れない
「ただいまぁ」
すっかり陽も沈み、藍色の空には星々がきらめいている。定時の七時より一時間以上残業した私は、春寒の夜風に身を竦(すく)ませながら玄関の引き戸を開けた。
「おかえりなさいませ、日菜子様」
中では清仁が、頭を下げて出迎えてくれている。
「ただいま。待っててくれたんだ、ありがとう。でも、いつも言ってるけど、遅くなる日は待っててくれなくて大丈夫よ? 毎日早く起きてるんだから、ちゃんと早く寝ないと身体も持たないし」
「日菜子様のお心遣い、誠に痛み入ります。ですが、皆さまのお帰りを確認してからでないと気になって眠れない性分ですので、どうかお気になさらず」
何度このやり取りをしていることだろうか。いつも目尻を垂らし、ふわふわとした優しい笑顔を浮かべている彼だったが、仕事に関しては驚くほどストイックで、絶対に誰よりも早く起きて朝ごはんの準備をし、夜は必ず家中の見回りを済ませてから最後に眠っていた。
誰も清仁の寝顔を見たことないんじゃないかというのが、私の長年の疑問になっている。
すっかり陽も沈み、藍色の空には星々がきらめいている。定時の七時より一時間以上残業した私は、春寒の夜風に身を竦(すく)ませながら玄関の引き戸を開けた。
「おかえりなさいませ、日菜子様」
中では清仁が、頭を下げて出迎えてくれている。
「ただいま。待っててくれたんだ、ありがとう。でも、いつも言ってるけど、遅くなる日は待っててくれなくて大丈夫よ? 毎日早く起きてるんだから、ちゃんと早く寝ないと身体も持たないし」
「日菜子様のお心遣い、誠に痛み入ります。ですが、皆さまのお帰りを確認してからでないと気になって眠れない性分ですので、どうかお気になさらず」
何度このやり取りをしていることだろうか。いつも目尻を垂らし、ふわふわとした優しい笑顔を浮かべている彼だったが、仕事に関しては驚くほどストイックで、絶対に誰よりも早く起きて朝ごはんの準備をし、夜は必ず家中の見回りを済ませてから最後に眠っていた。
誰も清仁の寝顔を見たことないんじゃないかというのが、私の長年の疑問になっている。