突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「お母さん……?」

 再び訊ねると、母は大きく深呼吸をしてから、おもむろに口を開く。

「大変よ。澄奈(すみな)が……」

「お姉ちゃんが、どうかしたの?」

 必死で冷静に努めようとしている母の言葉に、小首を傾げた。すると、彼女は唇を強く結び、手に持っていた紙切れをそっとこちらに差し出す。

 訳もわからないまま受け取ったそれに、恐る恐る顔を落とした。

 目が文字を辿っていくほどに、手が震え出す。最後まで読み終えるよりも先に、母が膝から崩れ落ちた。

「どうしましょう! 結納の儀当日に、新婦がいなくなったなんて……!」

 悲鳴にも似た、嘆きの声が上げられる。

 そりゃそうだ。だって今日は、我が家で姉の結納の儀を執り行う日なのだから。

「……お姉ちゃん、好きな人がいたんだね」

 とりあえず書き置きの内容に最後まですべて目を通した私は、小さく息を吐き出した。

「なんてことじゃ!」

 重苦しい声がして、紙を持っていた手にぐっと力が入った。
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