突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「いって!」

 見事に命中した。あまりにも簡単に引っかかったものだから、嬉しくてつい頬の筋肉が緩む。彼は額を押さえながら、目を白黒させていた。

「触れたら許さないって言ったでしょ」

 堪えようが堪え切れず、口もとが引くつく。

「お前……もう寝ろ」

 彼の声色が、ひと際低くなった。

「……あなたもここで寝るの?」

「床では寝ないぞ」

 上機嫌もここまで。やはり、一緒に寝るつもりらしい。しかし、私がなにを言っても、どうせここで寝ることになるんだろう。無駄な戦いで体力を消耗するくらいなら、少しは気分の良いままでこの壮大な疲労感を癒やしたかった。

 じゃないと、明日仕事どころじゃなくなっちゃう。
 なにかいい方法は……。

 腕を組み、頭を悩ませる。

「ちょっと待ってて」

 あるものを見つけ、閃いた。彼は動き出す私の動向を黙って眺めている。

「いいわ」

 たくさん置かれていた枕を、頭もとから足先に向かって並べた。できあがった境界線を見て、彼は呆れたように長い息を漏らす。
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