突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
第三章 繕えないもの
 眩しさに顔を歪め、唸り声を上げながら身体を丸めた。布団に潜りたいのに、なぜかそれは重くて動かない。心地良く痺れた頭で疑問に思いながらも、私は先ほどよりも強い力で引っ張った。

 ……あれ? なんで動かないの?

 不可思議な現象が、一気に頭を覚醒させた。跳ねるように勢い良く起き上がる。

「起きたか」

 ぼんやりとした視界の中に、こちらを覗き込む男性の姿を捉えた。三回ほど瞬きしてから、頭の中で警告信号が鳴り響く。

「キャー!!」

「いてっ! なにすんだよ。寝ぼけてないで起きろ!」

 間近にあった枕で男性を殴ったあと、聞き覚えのある声に手が止まった。徐々に、昨日の出来事が脳裏に蘇っていく。

 あ、そうだった。私、昨日立花家にやって来たんだった。

 すっかり目を覚ました私を見て、すでに濃紺のスーツを身に纏いベッドに腰掛けていた創が、わざとらしく大袈裟なため息をつく。

「本当にお前は信じられないやつだな。おかげで俺も、コーヒーを飲まなくても完全に目が覚めたよ」

 彼の口角は上がっているけれど、目はまるで笑っていない。額に青筋の立つ音が聞こえてきそうだった。枕を盾のようにして隠れる。
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