突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします

「ご、ごめん……。でもあなたも、なんだって寝ている人の顔なんか覗き込んで……」

「起こそうと思った瞬間にお前が起きたんだろ。ったく、力いっぱい殴りやがって。寝起きなのにこの馬鹿力が」

　彼は、未だ痛そうに頭を押さえていた。さすがに申し訳なくて、「ごめんなさい……」と頭を下げる。

　よほど疲れていたらしい。気が張っていた割に夜中も一度も目を覚まさなかったし、よく眠った感覚があり、いやに頭がすっきりしていた。そのせいか、一瞬ここに来たことも忘れてしまっていて、朝から本当に驚いた。

「お前、ハルオの本社で働いてるんだよな？　電車で通ってたのか？」

　彼が脈絡もなく問いかける。きょとんと目を丸めた。

「そうだけど……」

「じゃあ、ここから駅までの道、わからないだろ」

「あ」と短い声を上げる。

　たしかにそうだ。昨日はそれどころではなく、うっかりしていた。