突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「俺は今日早い。もう出る。人を呼んであるから、今日はそいつに送ってもらえ」

「えっ? 人?」

「あと三十分くらいで来るはずだから、二度寝しないで用意してろよ。寝癖すごいぞ」

 その言葉に、勢い良く頭を抱えた。しかし、足早に寝室のドアに向かう彼の姿を見て、慌てて膝立ちになり呼び止める。

「ま、待って、人ってどんな――」

 よほど急いでいたのか、無情にも彼は足を止めることなく行ってしまった。ドアの向こうに消えていく背中を、手を伸ばしたままの体制でしばらく眺める。

「……行っちゃった」

 胸に込み上げる不安にあえいだ。

 迎えに来てくれるって、運転手さんとかかな……?

 眉根を寄せ、考えを巡らせる。しかし、彼の言葉を思い返した私は、弾けるように立ち上がった。

 三十分で迎えに来るって言ってたよね!? どうしよう! 早くしないと間に合わない!

 ベッドから飛び降り、洗面所へと駆け込んだ。鏡に映った自分のひどい寝癖姿に、心が折れて涙が滲みそうになる。

 こんな日に限っていつもよりすごい……。
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