突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします

「な……なにするのよ！」

　目を剥き、怒りに声を震わせた。頬が熱い。きっと赤くなっているだろうこの顔を見せるのも嫌だったが、それでも叫ばずにはいられなかった。顔色ひとつ変えずこちらを見下ろしている彼が、そんな私を見て小さく鼻を鳴らす。

「躾（しつけ）だ」

「躾？　そんなわけがわからない理由で……こんなこと……！」

　激しい憤りが頭の中で渦巻く。悔しくて泣きたくなった。唇を手で拭い、彼を睨み付ける。彼の眉がぴくりと小さく跳ねた。

「お前には首輪も必要そうだな。……仕事で外に出るとき以外は、必ずここ部屋の中にいろ。勝手な外出は認めない」

「なにそれ、横暴よ！　そんな一方的な約束、絶対に守らないから」

　納得などできるはずもなく、突っぱねる。冷ややかな表情を浮かべる彼は、かまうことなく言葉を続けた。

「お前の行動は、今後俺やタチバナグループ全体に関わってくるんだ。いい加減、自分の立場を自覚しろ。お前はなにがあっても俺の妻になるんだ」

　今朝までとはまるで違う。今の彼には、優しさなど微塵も感じなかった。それなのに――。