突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
 ……あの女ったらし。いくら黙らせたいからってあんなことをするなんて。あれでも、私にとっては初めてのことだったのに……。言えばどうせ、「本当に、キスもしたことなかったのか?」なんて馬鹿にされるに決まっているから黙っていたが、私を嘲笑するその姿が安易に想像できた。

 創はなにを考えているんだろう。意地悪でも、ときには優しいと思える一面もあったのに。こんな時間が、もしかしたら一生続くのかな……?

 答えの出ない疑問が頭の中を駆け巡り、大きなため息になって吐き出される。

 いくら私たちがあんな約束をしていると言っても、婚約が発表されたらもうタイムリミットだ。私たちが結納を交わしてから、すでに三週間が経っていた。いつ婚約発表が行われてもおかしくはないし、入籍の日取りが決められてもおかしくはない。

 政略結婚ということもあり、自分たちの都合だけでどうこうできないのがもどかしかった。

 お姉ちゃんも見つからないままだし、いったいどこでなにをしているのかな? まさか私が代わりに婚約させられているなんて夢にも思っていないだろう。知れば、自分のせいだとショックを受けてしまいそう。

 眉をへの字にし、困ったように笑った。

 すると、ドアをノックする音がして、考えにふけっていた私は驚いて肩を跳ねさせる。
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