突然ですが、オオカミ御曹司と政略結婚いたします
「は、はい」

 慌てて駆け寄り、ゆっくりとドアを開けた。青磁色の着物が目に入る。辿るように顔を上げると、そこには立花のおじい様が立っていた。

「日菜子さん。よかったら、お茶でもどうかな?」

 にっこりと優しい笑顔を浮かべる彼に、「はい、ぜひ」と答えると、彼は嬉しそうに鼻の下に蓄えた白いひげを撫でる。

「天気がいいから、庭に出よう」

 洋館の前に広がる広大な庭。晴れ晴れとした気持ちの良い空を見上げ、私は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。新緑の青い匂いに鼻腔を擽られ、心地良さに胸が躍る。

「日菜子さん、お茶が入ったぞ」

 振り返ると、テーブルセットにはお手伝いさんが用意してくれた紅茶とケーキスタンドが並べられていた。ケーキにマカロン、クッキーにダックワースまで。たくさんある。

「おじい様。お誘いいただきありがとうございます。いただきます」

 椅子に掛けて感謝を述べる私に、彼は「どうぞ」と優しく微笑んだ。ティーカップを手に取り、豊かな香りを含んでくゆる湯気を楽しみながら口をつける。

「おいしい」

 つい漏れ出してしまったような、素直な感想だった。
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