死神メルの大事件

 典子自身運動が得意な方ではない。むしろこの世から運動なんかなくなれば良いと思う程の運動音痴――上空を悠々自適に飛び続けるマサオをこれみよがしに睨み続けながら走った――

「ちょ、ちょっと……い、一体どこまで――」
 不快な汗が喉元を伝い始めた刹那――マサオの足から聡のシャツが離れ、ゆっくりと地上へ舞い落ちてゆく。
 ほぅ……と息をついたのも束の間――シャツが落ちた視線の先には九年間、手塩にかけて育てた我が子の姿がアスファルトに横たわっていた。

 見間違うはずがない。
 だが信じたくもない。
 微動だにしない我が子を見て、典子の時間は時を刻む事を止めた――
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