死神メルの大事件
「聡ちゃん……聡っ!」
サンダルが脱げた――気にかける暇などなかった。人生で一番みっともなく、しかし最も一生懸命走った僅かな時間は聡の元へ行く為に使われた。
「聡?聡……ねぇ、どうしたの?聡?」
――冗談だよ、マサオと一緒に悪戯したんだ。ごめんね、ママ。
そう言って笑ってくれる事を願った――だが、何度問い掛けようが、どんな言葉を並べようが聡の小さな二つの瞼は開かれる事はなく――
「あぁ……あぁぁぁぁぁっ!!」
変わりに典子の断末魔にも似た叫び声が辺りに響き渡り、それが嗚咽と変わるまでに時間は必要なかった――