死神メルの大事件
喫煙室にあるオレンジ色の電気を点し、年期の入ったソファーに身を投げ出すようにして座り、紫煙を盛大に吹き零した。
「やっぱり胸の傷が気になりますか」
「あぁ、昔からシャーロックホームズばかり読んでた俺だ。細かい違和感があるとどうにもそれが引っ掛かってくる」
「ホームズは別として、あの傷は鑑識の結果では生島穣本人のものだったみたいですよ」
「だからこそ、だ。死因は心不全という事だが言い換えれば『死んだ原因は分からない』と言ってるようなものだ」
岸本は田中と向かい合うように座り、火のついた煙草を吸おうともせず、何かを探すかのように天井を見渡している。
「どうした?」
「……いえ。しかし似たような事が他にも数件あがっていますね」
「正確には六件だ。何れの遺体にも胸に引っ掻き傷がついている。岸本、お前はこれをどう思う」