真実さんと正義くん(おまけ話更新中)
番外編・正義と不憫な下僕

俺は神野藤道義<かんのとう みちよし>成人したての大学生だ。
今日はバイトも無いし、久々に家でゆっくりしようとリビングのソファーに寝っ転がりながらテレビを観ている。

だらだら出来るって幸せだな~
チャンネル争いも無いし~。

こんなことをしみじみ思うのには訳があるんだ。
俺には正義っていう5つ上の兄貴がいる。
今は就職して一緒には住んでいないが、ここに居る時は地獄だった…。
アイツは外面が良い分、家では悪魔なんだ。
テレビだって俺が見たい番組を観れた試しがない。
普通、年の離れた弟を優先するもんだろ?

「は?何言ってんの。他所は他所、うちはうち。俺が絶対だから」

「俺が年上ってだけで何でお前を優先しないとなんないの?」

半笑いだったりドスの利いた声で言われたり…思い出しただけでも泣けるわ~。
俺、よくグレなかったよ。誰も褒めてくれないけど。

しかも、アイツは年下から年上まで広範囲にモテる。
俺には無表情も笑顔も悪魔にしか見えないんだけど、女にはそれがクールだとか笑顔が眩しいだとかでモテる。
しかも来るもの拒まずときたもんだ。

あ~ヤダヤダ、思い出してきたー。
くっそ!あんな荒んだ男女交際見てきたから俺には彼女が出来ねぇーんだ!


ところで、なんで俺がここに居ない奴を思い出してるかというと、今まさに母親が兄貴と電話してるからだ。
しかも、やたら母親のテンションが高い。

「うんうん、お父さんと道義には言っておく。やだー!もう楽しみー!!え?そうなの?やーね!分かってるわよ!じゃ来週ね。あ、来る時間分かったら連絡ちょうだいよ。じゃーね」

受話器を置いた母親は今にも歌いだしそうなくらいご機嫌だ。

「来週兄貴帰ってくるの?」

「そうなのよー!道義も予定入れないでおいてね」

「はあー?なんで?」

会いたくないからバイト入れてそのままダチんちに避難しようと思ってたのに。

「うふふふふ。お母さん念願の娘が出来るのよ!」

「は?」

「お兄ちゃんと真実ちゃん結婚するんですって!」


―――――――――ん?
けっこん……けっこん?
兄貴と真実ちゃんが血痕?

ケッコン ッテ ナンダッケ??


「―――――まさか結婚か!!?ウエディングドレス着るやつか!!?」

頭の中で変換された漢字に衝撃を受け、ソファーから飛び起きた俺になんて見向きもせず、母親はカレンダーにハートマークを書き込んでいた。

「来週、真実ちゃんちと顔合わせするって。お兄ちゃん、そこでしか時間作れないらしいの。大変よね~」


いや、アイツの大変なんてどーでもいい。
真実ちゃんの方が大変じゃねーか!!
ってか……


「え、真実ちゃんって向いの真実ちゃんだよな?まだ続いてたの!?」

「ちょっとーあんた失礼ね」

「いや、だって兄貴転勤になってからあんまこっちに帰って来ないじゃん。てっきり自然消滅したんだと」

「10年愛なめちゃダメよ。しかもお兄ちゃん初恋の相手だし」

「ぶっ!は!?だってアイツいままでも彼女いたじゃん!」

「初恋だったって気付いたの中学生だったかしら?真実ちゃんに彼氏出来ると不機嫌だし、邪魔しようとするし?もうお母さん見ててもどかしかったー!」


キャッキャしてる所悪いんだけどさー。
俺、アイツの自称彼女と思わしき人物10人は知ってるよー。
あーでも、どれも真実ちゃんとは正反対だったな。


「それさー、兄貴は初恋でも真実ちゃんは違うじゃん。邪魔とか最悪じゃね?」

「あの程度の障害で別れるならそれまでなのよ。道義は分かってないわね~だから未だに彼女が出来ないのよ」

「はー!?それはかんけーねーだろ!?」

「そうそう、真実ちゃんの家族にはまだ言っちゃダメよ」

「なんで?」

「真実ちゃんが自分で家族に言うまではダメなんですって。お母さん早く盛り上がりたいのになー」

「ふーん」


おばさん達にはなかなか会わないけど、真実ちゃんに会ったらおめでとうは言っとこ。
姉ちゃんになるわけだし。


―――ってか、これ祝って良いんだよな…?





―――終―――



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